お知らせ

新着

副学長 木村先生推薦図書 パート7

読書という旅に出よう
―公立小松大学で学ぶ学生の皆さんに―
(パート7)

「大和路・信濃路」 堀辰雄(新潮文庫)
「大和古寺風物誌」亀井勝一郎(新潮文庫)
「古寺巡礼」和辻哲郎(岩波文庫)

この時期になると、心が落ち着かなくなる。金沢に来てから、年末には奈良に2~3日遊ぶことにしている。東大寺法華堂の諸仏、斑鳩の三つの塔などは、毎年見ても常に惹かれるものがある。斑鳩の里をぶらついて、法起寺、法輪寺、法隆寺の塔が遠望できるところまで来ると、亀井勝一郎のように、「ああ、塔が見える。塔が見える」と言いたくなる心持ちが良く理解できるのである。今回は大和路のガイドブック的なものを3冊選んでみた。

大和路についての本はたくさんあるが、ここに挙げた3冊は古典といってよいものである。堀辰雄の「大和路・信濃路」は文学者の繊細な感性が感じられ、大変読みやすいものである。浄瑠璃寺の馬酔木の話や古墳についての想像などからは、大和路の春や秋の気配が良く感じられる。亀井勝一郎の「大和古寺風物誌」は、自己の祈りの世界を古寺の堂塔や諸仏に投射しているようなところがある。転向文学者としての生い立ちを背負っているためか、そこには救いを求めようとする真摯な信仰の世界が広がっている。3冊の中では最も心惹かれる。和辻哲郎の「古寺巡礼」は最も世に知られているものであろう。以前読んだ時は、美術史に関する記述が多く、やや難渋で読みあぐねたことを覚えている。しかし、改めて読み直してみると、情緒に流されずに美術史家として学問的客観性を求めようとする姿勢に大変好感が持てた。

さてこの年末はどこへ行こうか。奈良から桜井に向かう国道169号線は、昔は「山の辺の道」に沿う静かな道だった。しかし、今では大分交通量が多くなった。これを南下して帯解の辺りまで来ると、左に円照寺の森が見えてくる。三島由紀夫の「豊饒の海」で重要な役割を果たす寺である。天理を過ぎると正面に崇神、景行の巨大な古墳が現れ、その先に赤松に覆われた三輪山の秀麗な姿が見えて来る。このあたりから、奈良盆地の反対側、右手遙かに二上山もよく見える。法隆寺も良い。いつか拝観に一番乗りし、広い西院伽藍にたった一人ぽつねんとしていたことがある。生駒下ろしに雪が舞う寒い日であった。その時、天空からこの世のものとは思えない不思議な鐘の音が響いてきて、一瞬、上宮王家の惨劇が頭をよぎった。しかし、それは塔のひさしにある宝鐸の奏でる音であることがすぐわかり、現実に引き戻された。あの宝鐸の響きをもう一度聞きたいものである。