お知らせ

  • 2019/07/19
  • 副学長 木村先生推薦図書 パート2
  • 読書という旅に出よう
    ―公立小松大学で学ぶ学生の皆さんに―(パート2)
    
    「無常という事」―小林秀雄全作品 全28集第14集―
    著者 小林秀雄 
    平成28年11月5日 第4刷 新潮社
    
     我々が学生時代、今から半世紀ほど前になるが、大学では学生運動がようやく下火になろうとしていた。しかし、学内にはまだその余波が感じられ、一部の学生は反体制という政治活動に情熱を燃やし続け、既成社会制度の破壊という行為の正当性を信じて疑わなかった。彼ら政治活動家の間で最もよく読まれていたのが小林秀雄である。学生運動について意見を聞かれた小林は「数だけが異常で、内容が空虚な点で、学生運動は交通事故と同類だ」と述べたと伝わる。なぜこのような小林がよく読まれていたのか不思議な気がする。おそらく青年の純粋な魂が、小林の中に人間としての誠実さを見ていたのかも知れない。もちろん、我々の間でも小林は神のような存在で、「小林秀雄を読まざるものは学生にあらず」と言う勢いであった。
    
     この第14集に収められているのは昭和16年から20年の戦争中に書かれたものである。「無常という事」の他に「平家物語」「実朝」「西行」などが収められており、何れも20ページに満たない小品である。したがって、適当なものを選び、1時間もあれば読むことが出来る。小林の円熟期に書かれたもので、ある人は彼の日本語の美しさに感銘を受け、ある人はその強靭な精神に打たれる。「無常という事」は、「一言芳談抄」の引用から始まる僅か4ページの作品である。歴史を知るということは、過去の事象を己の心の中に再構築するというごく内的な行為である。己の心の中に、その時代の日の光、土のにおいまでをまざまざと思い起こす所作である。その人知れず行われる努力、それが歴史を知るということである。彼はそれを「平家物語」「実朝」「西行」で実践してみせたのである。比類のない日本語で書かれたこれらの作品は、文芸評論というより散文詩と呼ぶにふさわしい。